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ミニ情報通信

平成30年度関東・甲信越ブロック障害者雇用特別セミナーが開催されました。

 去る12月14日(金)午後1時30分より、中央大学駿河台記念館370会議室(東京都千代田区)において標記セミナーが開催されました。
このセミナーは、全重協が厚生労働省から受託した「障害者に対する差別禁止及び合理的配慮に係るノウハウ普及・対応支援事業」の一環として開催されたものです。

 当日は、まず最初に、主催者を代表して全重協の栗原会長から開会のあいさつがあり、1)全重協は、障害者を雇用している事業所やこれから雇用しようとしている事業所が集まって作った団体、2)来年で設立30周年を迎える、3)会員事業所は約320。そのうち特例子会社が約30%を占めている、4)会員事業所に雇用されている障害者は1万人以上で、そのうちの13%が精神障害者となっている、5)事業としては、障害者雇用に関する調査・研究や相談援助を行っている、6)相談援助については、全国7か所に相談コーナーを設けている、7)関東・甲信越ブロックの相談コーナーは東京の八丁堀にある、8)東京以外の企業も電話等でご相談いただきたい、9)国の役所で障害者を4,000人雇用するという話があるが、障害者は必要な合理的配慮をすることによって初めて戦力として定着する、10)本日は、その道のスペシャリストにお出でいただいているので、障害者雇用に一歩踏み出すきっかけとしていただきたいといった話がありました。

 栗原会長のあいさつの後は、「障害者を企業の戦力として活かしていくために」というテーマでパネルディスカションが行われました。
 このパネルディスカッションでは、法政大学現代福祉学部教授の眞保智子様がコーディネーターとなり、さらに、就労支援の立場から桜ヶ丘記念病院精神保健福祉士の中原さとみ様、雇用実績のある企業から有限会社川田製作所副社長の川田駿介様、当事者の立場からYPS横浜ピアスタッフ協会の堀合研二郎様が、それぞれパネリストとして参加されました。
 このうち、まず眞保様からは、1)欧米の法定雇用率は日本よりも高いが、障害者の定義やカウントの方法が日本とは異なる。日本の障害者雇用が特に遅れているわけではない、2)身体障害者は60歳以上が8割を占める、3)精神障害者の新規求職申込件数や就職件数は大幅に増えている、4)精神障害者の雇用は避けては通れない課題、5)障害者の仕事を創出するには、「比較優位」による分業の視点が重要、7)それぞれの社員がやっている周辺業務(周辺業務はコア業務に近い難しい仕事からコア業務と直接関係のない比較的簡単な仕事がある)を能力と適性に応じて適材適所の視点で障害者が担当できれば、社員はそれぞれ優先順位の高いコア業務に集中でき、生産性も上がる、8)障害者雇用はフルタイム勤務ばかりではなく、時給制で短時間勤務から始めることも考えられる、9)障害者の初期訓練費用については、助成金や支援機関を活用できる、10)手帳を持っているが、支援を受ける側から卒業した人が行うピアサポートが注目されているといったお話がありました(眞保様のお話の詳細については、こちらの資料をご覧下さい)。
 眞保様のお話の後は、中原様から、1)桜ヶ丘記念病院では、患者の意思を尊重し、ストレングス(強み・長所)を活かすIPS(Individual Placement and Support)モデルにより、治療と職業生活の両立支援を行っている、2)IPSについては、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、我が国において、その実践に基づく有効性が報告されている、3)一般就労は、精神障害者が自分のリカバリーを追求できる方法の一つ、4)地域社会とつながることで精神保健福祉機関が提供するサービスへの依存が少なくなる、5)ハローワークと連携して、精神障害者の就労支援モデル事業も実施している、6)精神障害者が働くためには、働き方・労働時間、通院・医療、病気・障害への理解、休憩等について合理的配慮が必要、7)障害のある人が企業の戦力となるためには、事業主、求職者双方のニーズをなるべく具体的に引き出すことが重要、8)IPSを運営していく上で、就労支援機関のプログラムが効果を発揮しているかどうかを定期的に評価し、改善の必要性を検討する仕組みが必要といったお話がありました(中原様のお話の詳細については、こちらの資料をご覧下さい)。
 また、中原様のお話の後は、今度は川田様から、1)会社では、金属プレス加工や金型製作を行っている、2)社員23人のうち、障害者は5人、3)65歳以上の社員や外国籍の社員もそれぞれ6人ずついる、4)通院だけでなく、リフレッシュのために有給休暇を積極的に取らせるようにしている(昨年度の取得率は100%)、5)障害者のキャリア意識を高めるため、社外コンサルタントによるキャリアコンサルティングも実施している、6)数字が苦手な障害者については、カウンターを用意した、7)これにより、数字の間違いが少なくなった、8)カウンターについては、同じ仕事をする健常者も使わせてほしいと言っている、9)障害者の苦手なことを理解することが重要、10)また、障害者の得意なことを仕事に活かすという視点も重要といったお話がありました(川田様のお話の詳細については、こちらの資料をご覧下さい)。
 さらに、川田様のお話の後は、堀合様から、1)職歴が全くない中で、就職しようとして作業施設(就労継続支援B型)にたどり着いた、2)現在は、職員として雇用されて2年目、3)障害を持つ職員(ピアスタッフ)として、障害を持つ利用者を支援している、4)障害者は働ける時間が短いので、短時間勤務を認めてほしい、5)電車(特に満員電車)が苦手な人も多いので、通勤時間にも配慮してほしい、6)苦手なことはその人に聞いてみないと分からない、7)コミュニケーションを密にしていっぱい話をしてほしい、8)今は、仕事が楽しくてしょうがないといったお話がありました(堀合様のお話の詳細については、こちらの資料をご覧下さい)。

 以上のお話の後は、コーディネーターの眞保様から各パネラーに、1)IPSは本人の意思を尊重するということであるが、障害の重い人が仕事をしたいと言ったらどうするのか、2)川田製作所では障害者雇用をどのようにして始めたか、3)福祉施設が支援を行うのは通常昼間だと思うが、働いている障害者から「夜支援を受けたい」と言われたら、YPS横浜ピアスタッフ協会ではどのように対応しているのかという質問があり、これに対し、各パネラーからは、1)IPSでは、事業主のニーズも把握して、それに合った人を紹介するので安心してほしい。障害者にもSST等、それぞれの症状に合わせた支援を行っている。就労支援も含め、病院ならではの手厚い支援を行っている(中原様)、2)障害者雇用は仕事が増えるたびに一人ずつ増やしてきた。ハローワークに求人を出した際に、その仕事は障害者もできるかときかれた。できると答えたら、ハローワークの職員と就労移行支援事業所のジョブコーチが職場を見に来てくれ、それに合った障害者を紹介してくれた(川田様)、3)夜、定例的に集まり、話し合ったりして楽しい時を過ごしている。勉強会と飲み会がメイン(堀合様)といったご回答がありました。

 以上のやりとりの後は、今度はグループディスカッションということで参加者が4〜5人のグループに分かれて障害者雇用に係る日頃の悩み等について話し合いました。
 その中で出た主な悩みとしては、1)実習については、企業側は採用を前提とすることが多いが、働く側は必ずしもそうではない。この辺のずれをどう考えたらいいか、2)障害者に合理的配慮をする際に、甘えとの区別が難しい。障害者の要望をどこまできいてあげたらいいか、3)障害者に手帳の有無を含め、障害のことをどこまできいたらいいか分からないといったようなことでしたが、こうした悩みに対して、パネルディスカッションのコーディネーターと各パネラーから、1)職場への定着ということを考えれば、インターンシップを経て雇用するのが一番いい。障害者の適性や労働時間、賃金水準を見極めることができる。もちろん、企業から採用を前提とせずに仕事をする場を提供していただけるのであれば、それに越したことはない(眞保様)。仕事はやってみないと分からないので、是非体験する機会をいただきたい(中原様)、2)要望が障害によるものであればできるだけ配慮していただきたい。障害者はちょっとした配慮があれば、他の人と同じ土俵にのれる(中原様)。障害者が何故そのような主張をするのかよく聴いてみたり、どうしてそういう要望が出て来たのかよく調べてみることも必要ではないか(眞保様)。障害者にはまず仕事をやってもらう。何か配慮することにより、仕事ができるようになるのであればなるべく配慮する。障害者は必要な支援をすれば働くことができる(川田様)、3)働けるということは障害者にとってもありがたいこと。必要な支援を踏まえた上で、どんどん働かせてあげてほしい(堀合様)といった心強いお話がありました。

 今回のセミナーについては以上です。
 当日は、この後、全重協関東・甲信越ブロックの新井ブロック長(埼玉福興株式会社代表取締役)の閉会のあいさつをもってセミナーを終えましたが、今回のセミナーは、グループディスカッションのコーディネーターを務めていただいた眞保様のお言葉にもあったように、障害当事者、30年以上に渡って障害者を雇用し続けている企業、医療の最先端で精神障害者の就労支援をされている方といったように、いろいろな立場の方のお話をお伺いする大変貴重な機会となりました。